「あなそれ」にみる、それほど好きではない、恋愛とは。

ようやく最終回を迎えたドラマ、「あなたのことはそれほど」。

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私の中でのこのドラマは、「昼顔」ほど切なくない、「不信のとき〜ウーマン・ウォーズ」よりやりあわない、そして「奪い愛、冬」よりふざけてない、という印象。

ネットでは賛否両論分かれるドラマでした。私の周りでも、「意味がわからない、絶対見ない」派と「意味がわからないけど、面白いから見たい」派に分かれていた気がします。

どっちにしろ、「意味がわからない」ドラマだったような印象を持っていた人が大多数。そして私も美都の友人である香子(大政絢)と同僚の瑠美(黒川智花)を除いては、登場人物に現実味を感じなかった。

だけど、最終回でなぜか納得させられてしまった。

もしかするとこのドラマが一番人間らしい恋愛模様を描いていたのかもしれない。

 

まぼろしに恋する美都

「あの頃好きだった人は、あの頃の自分が好きだった人。

冷凍保存でもしとかない限り、今は自分も相手も変わってる。

あの頃好きだった人は、もうこの世にはいない、

亡霊…妖精…まぼろし…」

香子が言ったこの言葉がこのドラマのすべて。

美都がこの言葉を受けて笑ってしまったくらい、バカバカしいことだった。

美都は、「それほど」好きではない二番目に好きな人と結婚した。

そりゃそうだ。彼女にとって一番好きなのは、有島くん。

それも記憶の中の、まぼろしの有島くん。そんなの誰だって勝てるわけがない。

現に、今の有島くんはそこまで魅力的じゃない。そもそも浮気した後に、結婚していることを話すような男だ。ろくでもないのはわかっているが、美都には「有島くん」はあの有島くんであり、デフォルメがかかってしまっている。あの有島くんが自分を裏切るなんてありない。だからこそ亮太なんてどうなったっていい。

亮太が最後に、美都は恋をしたことがないんじゃないかと言っていたが、間違いない。彼女はまぼろしにしか恋ができない。

 

優しくてずるい男、有島くん

有島くんは、優しいようで優しくない。「なんの努力もしてこず」に、自分がしたいことを思う通りにしていると、自ずと結果はついてきた。

歯をみがきながら片手間に、美都にLINEをブロックしてほしいと連絡するような男だ。そして返事が来たときに言った一言。

「めっちゃ早起きしてんな」

”前のオンナ”を匂わせるこの一言がでてくるあたり、この男はずるい。

毎日子どもに挨拶をしにいっているのは、正直迷惑だとも思う。だけど、彼が続けるのは、「謝る」という行為を見てもらいたいからだ。優しい男を演じながら、結局はずるい。「したいことをしているだけ」なのに周りはそれを許してしまう。

なしくずしに許したかのように見える麗華だけど、「こんな自分にしたあなたが憎い」と言っていたように、変わってしまった自分や、綺麗な浮気相手の顔をきっと一生忘れないだろう。

高嶺の花だった有島くんと結婚した地味な麗華。形勢逆転し、彼女は有島のそんな様子がようやく見えてきた。そこで自分は、今の有島は「それほど」好きではないことに気がついたのかもしれない。

そうした気持ちを抱えて過ごす、有島との日常。

きっと有島は一生許されることなどない。

 

 「一番好きな人との結婚」を守りたかった亮太

そして最後に、サイコパスのような奇行と開きすぎた瞳孔で美都を見つめてきた亮太。

異様なまでに依存し、そして美都を愛してきたが、その様子は少し異様だった。

 

果たして彼は、本当に美都が好きだったのだろうか。

結婚生活を失った彼は、こうつぶやいた。

「あれより楽しいことあんのかな、人生。長いなぁ…」

一生懸命努力して、一番好きな人と結婚する。それが彼にとって一番しがみつきたかった幸せであり、亡き母へ見せたかった自分の将来の姿だ。

そのことに気づいた時、亮太はこう言ってのけた。

「そして今、僕の気持ちは、みっちゃんのことは…それほど?」

 

危ないストーカーのように有島を追いかけた美都、そして美都を追いかけた亮太。

アイドルを追いかけているような、大事な娘を囲い込んでいるような、どちらにせよ大きな愛情はあっただろう。

「ラストフレンズ」で錦戸くんが演じた宗祐をみたとき、どこか切ない気持ちになったのを覚えている。あれはDVというひとつの要素が加わっていたから、また話は変わってくるかもしれないが、あそこに感じたのは狂おしいほどの愛情と嫉妬。

だけどこのドラマにそれは感じられなかった。

冷静になって考えると「それほど」好きではないからだ。「結婚」と「まぼろし」に依存いて追いかけていた、それだけだった。

このドラマは、「クズっぷり」や「奇行っぷり」が話題ではあったけど、その根幹はそんなすごく人間らしいものでつくられていた気がする。