「雨が降ると君は優しい」ー野島伸司の描く無償の愛ー
■セックス依存症に悩む彩ちゃんがなぜかピュア!
この間ようやく見終わった、「雨が降ると君は優しい」。野島伸司脚本のHuluオリジナルのドラマ。これが面白かった。
「性と愛、性愛だよ。愛よりも上に性がきてる」
こんなセンセーショナルすぎるセリフが出てくるのも野島伸司ならでは。「バラバラドッカーン!」とか。
野島伸司っていうと、“野島三部作”とか言われて過激で暗くてヤバそうなドラマが多いし、最近なんかよくわかんない!なんていう大人はたくさんいるけど、私は最近の野島作品がすごく好き。
トレンディドラマの頃の「すてきな片思い」も「101回目のプロポーズ」ももちろん好きだけど、「ラブ・シャッフル」以降の野島作品が“やばい”って言われてきたあたりの作品も視聴率こそよくないけど、たまらなく面白い!
地上波で最近始まった「パパ活」も楽しく見始めたけど、「シニカレ」「49」「プラトニック」あたりも好きかなぁ。
どれも「死んでいる彼」がいたり、「実の父親じゃないパパ」がいたり、母親にときめいちゃったり。なんかセンセーショナルすぎない?って感じですが、だけどなんか野島作品の主人公たちは綺麗なまま。それがすごく不思議。
野島伸司が受けていたインタビューでこんなことを言ってました。
僕としては、そんな作品でも、人間のピュアな部分、人間の本質を描きたいと思っています。そのために、物語の中に何か一つ“枷(かせ)”を作ることを心掛けています。
野島作品で大事なのはその枷があるからこそ。そしてそれがあるから、どんな困難な状況にあってもピュアで綺麗に見えるんですね。
今回の「雨が降ると君は優しい」のヒロイン・彩ちゃん(佐々木希)も、まぁ可愛い。白ばっか着てるからなのかもしれないけど、本当に純真無垢な天使にしか見えない。セックス依存症な女性だなんて全く思わないし、思えない。物語が進んでも、彩ちゃんが汚れないのは、そういうことなのかもしれない。
佐々木さんの純粋で美しい少女性は、彩の“罪悪感を持ちながらもどこかあどけない欠落感”に郷愁をもたらしてくれるでしょう。
と野島伸司が言っているように、あどけなくて可愛い彩ちゃん。まさに少女性を感じます。そんなセックス依存症(性嗜好障害)をもつ妻と夫の愛の物語、それが「雨が降ると君は優しい」。
■野島伸司が描く“無償の愛”とは?
正直、普通に考えて愛する人が知らない相手と一夜を共にしている(しかも何度も)なんて考えただけでも辛すぎる!それが不倫となったら速攻離婚だよ!という話だけど、これがそうはいかない。これは心の病で、彩ちゃんは旦那への罪悪感と自分への嫌悪感とずっと戦っているから。
私が一番ぞくっとしたシーンは、彩が一度関係を持った男にストーカーされていて、家に入ってきて犯されそうになったところ。そこで旦那さんが間一髪助けるんだけど、これはどう見ても出会い系をやっていた証拠だし、関係をもったことを言っているようなもの。
彩ちゃんは真っ先に否定します。「違う、これは違う」って。そりゃそうなんだけど、そこで彼は笑顔で振り返る。狂気に満ちた笑顔なんかじゃなくて、本当に愛しい人を見るような顔で振り返るんです。そんなこと普通じゃ絶対できない。
でも「それだけ愛情があるんだね…!素敵!」なんて純粋に思えなかった。
主人公の信夫は、たとえ石を投げられても邪険に扱われても、どうしても愛する人を嫌いになれない。それは母親への感情とほとんど一緒で、それこそが野島伸司がいつもヒロインを描く時に共通しているところ。
「S.O.S」で深田恭子が演じた唯ちゃんや「シニカレ」で桐谷美玲が演じたルリ子みたいに、清純で疑いを知らず、力強くて優しくて、自分だけを愛し、信じて守ってくれる。そんな女いるか!って突っ込みたいところだけど、それは自分にとってのお母さんだったりお父さんだったりするのかもしれない。
いわゆる“無償の愛”というのは、子供に対して持つことはあっても、恋人や夫婦の間で感じることって限りなく少ないと思うんですよ。
でも男女の関係においても、お互いに相手に対して、男性が父性本能を、女性が母性本能を感じた場合、明らかに恋とは違う、無償の愛に近い感情が生まれることもあるんじゃないかと。
野島伸司がこう言ってましたけど、信夫と彩にはそういう感情があったのかも。じゃないと結婚生活を続けるなんて到底できない。そういった感情こそが無償の愛であり、素晴らしい愛のかたちなんでしょう。
■依存こそ、愛なの?
そんな旦那さんの信夫も尋常じゃない。とにかく何をされてもずっと笑顔。笑顔が張り付いて離れない、不気味なくらい笑顔でいっぱいの男性です。
彩は、そんな信夫の好きなところを「ずっと笑顔なところ、ずっと笑顔だから、いつ笑顔じゃなくなるか知りたくて結婚した」と言ってました。それもまた怖いけど(笑)。信夫も母親に対して大きなトラウマを抱えているので、愛されるためにはずっと笑顔でいなきゃいけないと小さな頃から言い聞かせてきたのかもしれないですね。彩を誰にも見つからないように田舎にとじこめたのも、信夫自身が永遠の愛を信じられていないんでしょうね。信夫も彩に依存してる。
カウンセラーの志保も、アルコール依存症の和馬に依存しているし、和馬は亡くなった妻に依存していて、百合もしかり。
彼らはみんな心の闇を抱えていて、他人に依存することに対して葛藤しています。どこか文学的で、だけど人間臭い、そんな登場人物たちがとても魅力的に描かれています。
まとめ
“妻のセックス依存に対する罪悪感”夫の“理解しようとする葛藤”という、心と体の二律背反を描くことで、夫婦の愛の絆を試す極限状態の磁場を敷きました。
野島伸司が公式サイトでこのようにコメントを出してました。
夫婦の絆は、不倫やお金の問題によって簡単に消滅してしまうものなのかもしれない。最近も不倫が話題になってますが、それは彼らの愛の絆が緩かったからと言ったらそんなことない。この夫婦の愛の絆がおとぎ話の王女と王子のように、ファンタジーなのかも。現実味はないかもしれないけれど、彼らの絆こそ“無償の愛”だと言えるはず。心の本質を描いた、深い恋愛ドラマだと思います。